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治療を受けた動物たち

● 猫の肥大型心筋症

患者外観:トラちゃん
患者外観:トラちゃん
トラちゃん(日本猫、雌、推定7歳)は、呼吸が苦しそう、ここ1ヶ月で痩せてきた、とのことで来院されました。健康な猫の呼吸の様子は通常おだやかなものですが、トラちゃんは診察台の上でも体全体で呼吸をし、大変苦しそうでした。
現状の危険性や、検査の必要性を説明し、トラちゃんの呼吸の様子に細心の注意を払いながら、血液検査およびレントゲン検査を実施しました。
胸水貯留レントゲン
胸水貯留レントゲン
正常な胸のレントゲン写真は、肺が黒く、心臓や太い血管が白く写ります。トラちゃんの胸の中は液体(胸水:白色)でいっぱいで、酸素交換ができている黒い領域はほんのわずかしかありませんでした。おなかにも少し液体(腹水)が溜まっている様子でした。
胸水抜去後レントゲン
胸水抜去後レントゲン
呼吸困難の原因は胸水の貯留によることがわかりました。どのような種類の液体かを検査することで原因が絞れるため、検査と治療を兼ねた胸腔穿刺を実施したところ、うすい赤色の胸水が一度に約200mlも抜けました。また、トラちゃんの呼吸もかなり楽そうになりました。写真は胸水抜去後のレントゲン写真です。黒い部分が増えています。
エコー
エコー
☆異常に肥大している心臓の壁(心室筋)。上の部屋(心房)は過度に拡張しています。
胸に液体が溜まる疾患には伝染性疾患、腫瘍性疾患、炎症性疾患などが考えられますが、採取した胸水の検査の結果、心臓疾患が疑われたため、心臓の超音波検査に移りました。そうすると、心臓の壁(心筋)が著しく厚くなっていて、心房と呼ばれる部屋が正常よりも拡張していることがわかり、トラちゃんの呼吸困難の原因は、肥大型心筋症とそれに伴う胸水貯留と診断されました。写真は超音波検査でみられた心臓の形です。
割面
肥大した心筋の割面
(Stephen J. Ettinger: VETERINARY INTERNAL MEDICINEより引用)
写真は教科書から転載した肥大型心筋症の心臓を輪切りにした写真です。上の部屋が拡張し、下の心臓の壁が肥大しているのがわかります。壁が異常に厚くなることで、血液を溜め込むスペースが極端に減少し、血液の流れが悪くなります。その結果として、胸やおなかに液体が溜まり、呼吸困難に陥ります。また、この病気の恐ろしい点は、流れが悪くなった血液が心臓の中で固まり、血栓ができてしまうことです。心臓でできた血栓はひとたび心臓を出て流れに乗ると、枝分かれした血管の、細い部分に詰まってしまいます。頻繁に詰まるといわれているのが太ももの付け根の血管(股動脈)で、急に後ろ足が立たなくなるというのがよくみられる症状で、突然死することもあります。幸い、トラちゃんの心臓の中には、血栓は見つかりませんでした。
鼻チューブ
鼻チューブ
☆経鼻チューブを装着した様子。
(写真はトラちゃんではありません。)
治療は主に、心臓の負担を軽減させるということを目標に行います。様々な薬剤が紹介されていますが、トラちゃんには、厚くなりすぎて、膨らみづらくなった心筋を少しやわらかくしてあげるお薬、心臓の血液を送り出す力が弱くなっていても、血液が楽に流れるように血管を少し拡げてあげるお薬、胸の中に液体が溜まりにくくするために、おしっこをたくさん出させるお薬の3種類を服用してもらいました。

入院中、翌日には再度胸水が溜まってしまうという状態が2日間続き、鼻には酸素吸入のためのチューブを設置させてもらいました。その後、お薬によく反応してくれ、胸水の貯留はかなり少なくなり、経鼻チューブもすぐに抜くことができ、無事、退院されました。今後は、低塩分の処方食を継続しながら、定期的に心臓や肺の様子を確認し、お薬の種類や量を調節していかなくてはなりません。
猫の肥大型心筋症は、心臓病のなかでかなりの発生率になります。原因は遺伝やストレス、ホルモンバランス異常などが言われています。特に、中高齢の猫に多く、症状がでない、いわゆる潜在型が多く存在すること、また、症状は突発的に発症することから、6,7歳を過ぎた時点で、血液検査と合わせ、心臓の定期健診も受けていただいたほうが早期発見につながるものと考えられます。

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